ヨーロッパイエコオロギは、爬虫類や両生類の生き餌として扱いやすく、自家繁殖にも挑戦しやすいコオロギです。
ただし、「卵を産ませる環境」「温度管理」「共食い対策」など、いくつかのポイントを押さえておかないと、なかなか増えない・途中で全滅するといった失敗も起こりがちです。
この記事では、ヨーロッパイエコオロギの繁殖方法を基礎から順に解説し、「なぜ繁殖しないのか」「どうすれば安定して増やせるのか」が分かる構成でまとめています。
これから自家繁殖に挑戦したい方はもちろん、すでに失敗経験がある方にも役立つ内容です。
ヨーロッパイエコオロギは繁殖しやすい?

ヨーロッパイエコオロギは、数ある餌用コオロギの中でも比較的繁殖させやすい種類とされています。
その理由は、環境への適応力が高く、特別な設備がなくても産卵・孵化まで持ち込める点にあります。
成虫になるとオスは鳴き、メスはしっかりと産卵行動を行います。
温度と湿度がある程度確保できていれば、意識的にペアリングをしなくても自然に交尾・産卵が進むのが特徴です。
また、フタホシコオロギなどと比べると体サイズがやや小さく、
・ケース内での管理がしやすい
・過密による事故が起きにくい
といった点も、自家繁殖向きと言われる理由のひとつです。
一方で「放っておけば勝手に増える」というほど簡単ではありません。
特に、
- 産卵床が適切でない
- 温度が足りない
- 親と卵・幼虫を分けていない
といった条件が重なると、産んでいるのに増えないという状況に陥りやすくなります。
つまりヨーロッパイエコオロギは、基本を押さえれば初心者でも繁殖可能だが、雑に扱うと失敗しやすい種類という立ち位置です。
ヨーロッパイエコオロギの繁殖方法
繁殖に必要な飼育環境の整え方

ヨーロッパイエコオロギの繁殖で最も重要なのは、ケース内の環境を「産卵しやすい状態」に整えることです。
特別な機材は不要ですが、いくつか外せないポイントがあります。
まずケースサイズですが、成虫を10〜20匹ほど入れるなら、衣装ケース程度の大きさがあれば十分です。
重要なのは広さよりも通気性で、フタには必ず大きめの通気口を設けておきます。蒸れた環境は死亡やカビの原因になります。
床材については、基本的に不要です。
繁殖目的の場合、床材を敷くとフンや餌カスが溜まりやすく、管理が一気に難しくなります。
ケース底はプラのままにして、掃除しやすさを優先した方が安定します。
代わりに必須なのが、隠れ家用の資材です。
卵パックや段ボールを立てて入れることで、
- 成虫同士のストレス軽減
- メスが落ち着いて産卵できる
- 共食いの抑制
といった効果が期待できます。
隠れ家が少ないと、弱った個体や脱皮直後の個体がすぐに食べられてしまいます。
温度管理も重要です。
ヨーロッパイエコオロギは、25〜30℃前後で最も活動的になり、繁殖行動も活発になります。
20℃を下回ると動きが鈍くなり、産卵自体が止まることもあります。
なお、水入れに直接水を張るのは危険です。
後述しますが、水分はスポンジや野菜などを使って与えるのが基本になります。
産卵方法と卵の管理

ヨーロッパイエコオロギの繁殖で、成否を最も左右するのが産卵床の管理です。
ここが適切でないと、成虫が元気でも「まったく増えない」状態になります。
産卵床の作り方
産卵床には、浅めの容器(タッパーなど)を使います。
中身は以下のようなものが一般的です。
- 赤玉土(小粒)
- バーミキュライト
- 腐葉土(未発酵で清潔なもの)
ポイントは「軽く湿っている状態」を保つことです。
握ると形が崩れる程度が目安で、水が染み出るほど湿らせるのはNGです。
この産卵床をケース内に入れておくと、メスは産卵管を土に差し込んで卵を産み付けます。
順調であれば、数日〜1週間ほどで複数回産卵します。
親と卵は必ず分ける
産卵床を入れっぱなしにしていると、卵や孵化直後の幼虫が親に食べられてしまう可能性が非常に高くなります。
そのため、
- 2〜3日設置したら産卵床を回収
- 新しい産卵床と入れ替える
- 回収した産卵床は別ケースで管理
という流れが基本です。
「産んだかどうか分からないから不安」という場合でも、とにかく分けることが繁殖成功の近道です。
目に見えなくても、卵はすでに土の中に入っていることがほとんどです。
卵管理でやってはいけないこと
卵の管理で失敗しやすいのは、次のようなケースです。
- 乾燥させてしまう
- 逆に水をかけすぎてカビさせる
- 温度が低すぎる場所に置く
卵は非常に小さく、目視での確認はほぼできません。
そのため「いじらない」「触らない」「環境を安定させる」ことが重要です。
産卵床は、フタ付きケースに入れて保温し、次のステップである孵化を待ちます。
孵化までの日数と温度管理の目安

ヨーロッパイエコオロギの卵は、温度管理ができていれば比較的スムーズに孵化します。
逆に言えば、ここで温度を外すと「いつまで待っても生まれない」という事態になりやすいポイントです。
孵化までにかかる日数
孵化までの目安は、およそ7〜14日程度です。
ただし、これは温度がしっかり確保できている場合に限られます。
- 28〜30℃前後:7〜10日ほど
- 25℃前後:10〜14日ほど
- 20℃以下:孵化が大きく遅れる、または止まる
「2週間以上たっても何も起きない」という場合は、温度不足をまず疑った方が良いです。
温度管理の考え方
卵の管理ケースは、成虫ケースとは別で保温します。
爬虫類用のパネルヒーターをケースの下や側面に当てる方法が一般的で、ケース全体を暖めるよりも「床面がじんわり暖かい」状態が理想です。
注意点として、直に熱源を当てすぎないことが重要です。
局所的に高温になると、卵がダメになってしまいます。
また、フタを完全密閉すると蒸れやすくなるため、小さな通気穴を確保しつつ、乾燥しすぎないようにします。
乾燥と過湿のバランス
卵管理で一番多い失敗が、「乾燥させすぎる」か「水をかけすぎる」かのどちらかです。
基本的には、
- 表面が乾き始めたら霧吹きで軽く湿らせる
- 常にベタベタした状態にはしない
この程度で十分です。
霧吹きは卵に直接かけるのではなく、産卵床全体を軽く湿らせるイメージで行います。
孵化のサイン
孵化が近づくと、ケース内に極小サイズのコオロギ(Sサイズ以下)が現れます。
数匹だけ見つかっても、実際にはすでに複数孵化していることがほとんどです。
この段階で初めて「成功した」と判断できます。
孵化後の幼虫(Sサイズ)の育て方

ヨーロッパイエコオロギの繁殖で、最も数が減りやすいのが孵化直後〜幼虫期です。
ここを安定させられるかどうかで、自家繁殖が成功するかが決まります。
幼虫用ケースの考え方
孵化した幼虫は、卵管理ケースのまま育てても問題ありません。
ただし、成虫ケースと同じ感覚で管理すると、すぐに事故が起こります。
床材は成虫同様、基本的に不要です。
その代わり、卵パックや薄く切った段ボールを多めに入れることで、
- 隠れる場所を増やす
- 共食いを抑える
- 成長サイズごとの住み分け
といった効果が期待できます。
初期の餌と与え方
孵化直後の幼虫は非常に小さいため、粒の大きい餌は食べられません。
そのため、以下のような餌が向いています。
- コオロギフードを細かく砕いたもの
- 魚粉や人工飼料を粉末状にしたもの
- ごく少量の野菜(後述)
餌は「多すぎない量」を、常に切らさないことが重要です。
餌切れを起こすと、一気に共食いが進みます。
水分補給の注意点
幼虫期で最も多い事故が水死です。
水皿は絶対に使わず、次のような方法で水分を与えます。
- 湿らせたキッチンペーパー
- 水分を含んだスポンジ
- 野菜(小松菜・人参など)を少量
特に野菜は、餌と水分を同時に補給できるため便利ですが、腐りやすいので毎日交換が基本です。
共食いを防ぐためのポイント

幼虫同士の共食いは、完全に防ぐことはできません。
ただし、以下を意識することで被害はかなり抑えられます。
- 餌を切らさない
- 隠れ家を多めに入れる
- 過密にしない
- 成長差が出てきたらケースを分ける
「数が減る=失敗」ではありません。
自然淘汰も含めて、ある程度減るのは前提として考えた方が気持ちが楽です。
繁殖がうまくいかない原因と対処法

ヨーロッパイエコオロギの繁殖は、基本を押さえていてもどこか一つズレるだけで失敗しやすいです。
ここでは、実際によくある失敗パターンと、その対処法を整理します。
卵を産まない場合
成虫が元気なのに産卵しない場合、原因はほぼ次のどれかです。
- 温度が低い(25℃未満)
- 産卵床が乾きすぎている
- 産卵床が硬すぎる
- メスの数が少ない
特に多いのが温度不足です。
活動しているように見えても、産卵行動は止まっていることがあります。
また、赤玉土などが乾燥しすぎると、メスが産卵管を差し込まず、そのまま産まずに終わるケースもあります。
孵化しない場合
「産卵床は用意したのに何も生まれない」という場合は、
- 卵管理中の温度不足
- 乾燥による卵の死亡
- 水のかけすぎによるカビ
この3つがほとんどです。
特に、20℃前後で放置してしまうケースは非常に多く、卵自体は存在していても、そのままダメになってしまいます。
孵化ケースは「暖かく・湿りすぎず・動かさない」が基本です。
途中で数が激減する場合
孵化はするのに、数日〜数週間でほとんど消えてしまう場合、原因はほぼ共食いと水死です。
- 餌が足りていない
- 隠れ家が少ない
- 成長差が出ている
- 水皿を使っている
特に水皿は、幼虫全滅の原因になりやすいため注意が必要です。
うまくいかないときの考え方
繁殖が安定しないときは、一度に全部を改善しようとせず、
- 温度
- 産卵床
- 餌と水分
この3点を順番に見直すのが現実的です。
ヨーロッパイエコオロギは、条件が合えば確実に増える種類なので、「何が足りていないか」を一つずつ潰していくことが重要です。
自家繁殖と市販購入はどちらがおすすめ?

ヨーロッパイエコオロギは自家繁殖が可能ですが、すべての人に最適とは限りません。
目的や飼育スタイルによって、向き不向きがはっきり分かれます。
自家繁殖が向いている人
自家繁殖が向いているのは、次のようなケースです。
- 常に一定量の餌が必要
- S〜Mサイズを安定して確保したい
- 飼育ケースの管理に手間をかけられる
- 匂い・鳴き声を許容できる環境がある
特に、複数の爬虫類・両生類を飼育している人にとっては、コスト面・供給の安定性という意味で大きなメリットがあります。
一度軌道に乗れば、「欲しいサイズを、必要な分だけ確保できる」という状態を作ることも可能です。
市販購入が向いている人
一方、市販購入の方が現実的な人も少なくありません。
- 飼育数が少ない
- 匂いや鳴き声を避けたい
- 管理の手間を増やしたくない
- 必要なときだけ使いたい
特に、餌としてたまに使う程度であれば、無理に繁殖させるよりも、市販品を使った方がストレスは少ないです。
また、繁殖初期は失敗も多いため、「餌が切れる不安」がある人は、市販品併用が現実的です。
併用という選択肢
おすすめなのが、基本は市販+余裕があれば自家繁殖という考え方です。
- 市販品で最低限を確保
- 自家繁殖分は補助的に使う
- うまく増えたら徐々に比重を上げる
この形であれば、失敗しても致命的になりません。
ヨーロッパイエコオロギの繁殖は、「成功したらラッキー」ではなく「条件が揃えば再現できる」ものです。
無理のない範囲で取り入れるのが、長く続けるコツです。
まとめ
ヨーロッパイエコオロギの繁殖は、特別な技術が必要なわけではありませんが、
温度・産卵床・幼虫管理といった基本を外すと失敗しやすい繁殖でもあります。
- 成虫は25〜30℃で管理
- 湿り気のある産卵床を用意し、定期的に回収
- 卵は保温し、乾燥と過湿を避ける
- 孵化後は餌切れ・水死・共食いに注意
この流れを守れば、初心者でも再現性のある繁殖が可能です。
自家繁殖にこだわらず、市販品と併用しながら、自分の飼育スタイルに合った方法を選ぶのが一番現実的と言えるでしょう。
