ヒメアマガエルは体こそ小さいですが、その繁殖行動には意外と奥深く神秘的です!
梅雨の頃になると、沖縄やその周辺諸島の田んぼや水辺では「ピョッ、ピョッ」と響く特徴的な鳴き声が聞こえてきます。
これはオスがメスに向けて発するラブコール。
まさに恋の季節の始まりです(笑)
日本国内でも分布地が限られているヒメアマガエルですから、産卵からオタマジャクシ、そして子ガエルへと成長していく様子を、観察できる機会は多くの方にとってはないでしょう。
この記事では、ヒメアマガエルの繁殖時期や行動、またヒメアマガエルの飼育下での繁殖を目指すためのポイントなどを、わかりやすく解説していきます。
ヒメアマガエルの繁殖時期はいつ?
繁殖は梅雨入りとともに始まる
ヒメアマガエルの繁殖シーズンは、主に梅雨の時期、6月から7月頃にかけて訪れます。
気温が上がり、湿度が高まると、カエルたちは繁殖に適した季節が来たことを感じ取り、活発に動き始めます。
とくに夜間の雨上がりは、田んぼや水たまりの周辺でオスたちが一斉に鳴き始める様子が見られ、繁殖行動のスタートを告げるサインとなります。
鳴き声が合図?オスのアピール行動について
繁殖期になると、オスのヒメアマガエルは「カカカカ」と特徴的な鳴き声を響かせて、メスへのアピールを始めます。
言語化が難しいので実物の音声を以下の動画で聞いてみてください。
この鳴き声は、同じ場所にいる他のオスたちとも呼応するように連鎖的に広がり、まるで合唱のようになることもあります。
ヒメアマガエルの鳴き声の大きさやリズムには個体差があり、より魅力的な声を出せるオスほど、メスに選ばれる確率が高くなると考えられています。

ヒメアマガエルの繁殖行動とは?
繁殖時のオスの行動
ヒメアマガエルのオスは、繁殖期になるとできるだけ多くのメスを獲得しようと必死になります。
繁殖に適した水辺に集まり、盛んに鳴いてメスを呼び寄せ、見つけたメスには背中からしがみついて抱接(ほうせつ)を行います。
なお、この時期のオスは非常に敏感になっており、まれに他のオスに対しても抱接を試みてしまう「勘違い抱接」などの行動が見られることもあります。
メスの背中に乗る「抱採」とは
オスが繁殖相手としてメスを見つけると、背中にしがみついて交尾の体勢に入ります。
これを「抱接(ほうせつ)」と呼び、ヒメアマガエルの場合は前足でメスの胴体あたりをしっかりと抱える形になります。
ヒメアマガエルの抱接 pic.twitter.com/4uHnInJOdr
— ヒロポン (@hiropon1954) April 7, 2019
この状態のまま数時間から丸一日ほど過ごすこともあり、タイミングが合えばそのままオスがメスに乗った状態で水中で産卵が行われます。
抱採後に見られる行動の変化
産卵が終わると、オスは自然とメスの背中から離れます。
メスは産み終えた卵の世話をすることはなく、そのまま静かな場所へと移動して体力を回復させます。
一方、オスは再び新たなメスを探して鳴き始めることもあり、短い繁殖期の中でできるだけ多くのチャンスを狙おうとします。
産卵と子ガエルの成長の流れ
卵の数と産卵場所の特徴

ヒメアマガエルは、1回の産卵で数十個から100個ほどの卵を産みます。
卵はゼリー状の膜に包まれており、水の中に浮かぶような形で産み落とされることが多いです。
産卵場所としては、水たまりや田んぼ、プラ船のような浅くて動きの少ない水場が選ばれ、比較的安全で酸素がある程度供給される場所が好まれます。
卵からオタマジャクシへの期間

産卵から数日で卵の中で細胞分裂が進み、早ければ3日〜5日ほどで孵化が始まります。
水温が高いほど発育は早く、気温が低いと孵化までに1週間ほどかかることもあります。
孵化したばかりのヒメアマガエルのオタマジャクシは体が透き通っており、非常に小さく、まずは水中の微細な有機物を摂取しながら成長していきます。

オタマジャクシから上陸までの成長過程

オタマジャクシは順調に育てば、孵化からおよそ3週間〜1か月ほどで後ろ足が生え始めます。
その後、前足が出てくると急激に体つきがカエルらしくなり、尻尾が徐々に短くなっていきます。
やがて完全に尻尾が吸収されると上陸の準備が整い、水辺から陸地へと移動するようになります。この上陸直後の姿が、いわゆる子ガエルです。
飼育下での繁殖は可能?

繁殖の難易度と必要な環境条件
ヒメアマガエルは野外では自然に繁殖しますが、飼育下で繁殖を成功させるのは容易ではありません。
繁殖の前に、ヒメアマガエルは極小サイズのカエルであるため、その餌も極小サイズである必要があります。
ところが、ヒメアマガエルはほとんどの場合で人工餌を食べてくれないので、ショウジョウバエなど小型昆虫の生餌を与える必要があります。

この時点で、他のカエルよりも難易度が高いということはお分かりいただけると思いますので、カエル飼育のライトファンはまずヒメアマガエルの飼育に手を出さない方が良いです。
またその繁殖となれば、さらに難易度は増しますので心してかかりましょう。
まず、気温や湿度、水場の有無など、自然環境に近い条件を再現する必要があります。
とくに繁殖期を意識した温度管理や、日照・照明による季節の演出が重要になります。
さらに、十分な水深のある水場と、メスが産卵しやすい浮草や水草などの産卵基質も必要です。
繁殖に成功した例と失敗例
一部の飼育者からは、繁殖期に合わせて飼育環境を調整し、実際に産卵と孵化まで成功したという報告もあります。
しかし、オスがメスに興味を示さなかったり、水質や気温のわずかな違いで卵がうまく育たなかったという失敗例も多く見られます。
とくに抱接や産卵までは確認できたものの、孵化まで至らなかったケースが多く、成功率は決して高くありません。
繁殖を目指す際の注意点
まず第一に、複数個体の同居によるストレスや争いを避けるため、十分なスペースを確保することが大切です。
また、産卵後の卵は成体とは分けて管理しないと、親に食べられてしまうこともあるため注意が必要です。
さらに、繁殖は個体に大きなエネルギーを使わせる行為であるため、体力のある健康な個体を選び、普段から栄養バランスの良い餌を与えておくことも重要です。
まとめ:命の循環を近くで感じてみよう
ヒメアマガエルの繁殖は、自然のリズムに寄り添った神秘的な営みです。
雨の夜に始まるオスの鳴き声、抱接、産卵、そしてオタマジャクシから子ガエルへと続く命のリレー。
飼育下での繁殖は簡単ではありませんが、環境を整えて見守ることで、自然の営みをより深く理解する機会にもなります。
小さな命がつながっていく姿を目にすることは、飼育者にとって大きな感動と学びを与えてくれるはずです。